飲食店経営2006年2月号掲載
伊藤 万菜美 さん
【略暦】
1978年、東京・大田区生まれ。東洋英和女学院大学短期大学部英文科を2000年に卒業後、翻訳・通訳エージェントの(株)スリーエーインターナショナ ルの契約スタッフとして翻訳者・通訳者コーディネートに携わる。02年、ジャパン・フードコーディネーター・スクール入学。03年からブロッサム・オブ・ ナオコ(落合なお子氏主宰)で、テーブル・コーディネートのアシスタント、企画書の作成、ホームページやブログの制作、イベントの運営などを担当。並行し て04年より京都造形芸術大学通信教育部空間演出デザインコースに学士入学し、現在店舗設計や空間構想などを幅広く学ぶ。
飲食店にとって、接客サービスは店の浮沈にもかかわる重要な要因の1つである。ところが、店の売り物として具体性のある料理の開発には力を入れて も、サービスという無形のものに価値判断がしにくいために、どうしても二の次になってしまいがちだ。だがここ最近、この接客サービスを重視する飲食店が増 えており、それは非常に喜ばしいことである。そんな接客サービスの難しさと面白さを、今回搭乗していただく伊藤万菜美さんはアルバイトを通して知り、それ をきっかけにテーブル・コーディネーターへの道を進もうとしている。
伊藤さんは、大学生の時にドトールコーヒーショップでアルバイトを経験して、接客サービスの面白さ、お客にいかに楽しい状況で説きを過ごしてもらえ るかということの大切さを知ったという。以来、ダイニングバーの先駆けともいえる「響」、フカヒレで名を成した中国料理店「筑紫楼」、さらにはアートフー ドインターナショナルの「Fish Bank TOKYO」などの飲食店で接客サービスやレセプションを担当する間に飲食店に対する興味が徐々に大きく膨らんでいった。
「翻訳エージェントで働いていた時に、千葉の幕張で開催されるFOODEX JAPAN(国際食品・飲料展)に行く機会があり、その時にジャパン・フードコーディネーター・スクール(JFCS)のコーナーを目にして説明を受け、即入学することに決めました」
その時まで、伊藤さんはフードビジネス・コーディネーターという言葉も知らなかった。しかし、自分が目指そうとしている仕事が、まさにフードビジネス・ コーディネーターそのものだと分かった。そして、大学を出て、当初目標にしていた外国文学の翻訳という仕事からフードビジネス・コーディネーターへと大き くかじを切ったのだという。JFCSで、テーブルコーディネートをはじめ、フラワー・デザイン、料理教室などを主宰する「ブロッサム・オブ・ナオコ」の落 合なお子氏の講義を受けて感銘を受けた。その後、落合氏に面談し、さらにテーブルコーディネートの仕事を勉強したいという希望を話した。結果、2003年 から同氏のアシスタントになることを許された。現在も、同事務所に所属し、イベント会場の運営アシスタントやパソコンを使ったイベント用案内やレシピ、さ らにはホームページやブログの作成などを担当する。同時に、落合氏に師事して日々テーブルコーディネートの仕事を身に付け、落合氏の主宰するテーブルコー ディネート教室の卒業課題である作品展に、生徒と並んで出展する事を許された。 「単にテーブルをきれいに飾るだけでなく、その皿や食器に何を盛ろうとするのか、イメージを描いてコーディネートしなさい、とアドバイスを受けたうえでの 出品は、とても勉強になりました」
そんな日々の活動から、05年10月、落合氏の事務所にワインレストランの「CWG(カリフォルニアワインガーデン)」(東京・麻布十番)より連 絡が入り、06年1月末に神楽坂にオープン予定の2号店「s.l.o」のテーブルコーディネートの依頼が入った。そして、その仕事を、伊藤さんが担当する ことになったのである。オープンに向けて、伊藤さんは料理長をはじめとする店舗スタッフとミーティングを重ねた。s.l.oは落ち着いたレストランとして の色を強く出すというコンセプトを聞き、伊藤さんは白地でエッジのシャープな食器をコーディネートすることを提案した。「新店舗はワインに合わせたフレン チベースの無国籍料理を提供します。そこで、引き立て役の食器は白で統一。ただし、単に白いだけではなく、ラインのきれいなものにして、食器そのものも印 象を与え、お客様に楽しく食事していただけるようにセレクトしています」そうしたテーブルコーディネートをする際に、伊藤さんはテーブルの上だけの表現に 終わらず店内のインテリアとのトータルな調和に気配りを見せる。また、トータルなコーディネートの大切さを単に感覚だけに頼るのではなく、きちんと理論付 けたいと考えたことから、京都造形芸術大学通信教育部の空間演出デザインコースに入学し、目下、建築設計ソフトによる店舗設計の課題を作成し、空間デザイ ンについて学んでもいる。
自分でよしと思ったことは即実行という積極派の伊藤さんだが、自身のタイムスケジュールにおいて現在は知識を吸収する時期であると位置付け、現在 は落合事務所において、1つでも多くの仕事にかかわっていくことと、通信教育での理論と技術の習熟の両方からのキャリアアップに余念がない。「今はまだ、 1つでも多くの経験を積んでいかなければいけない段階です。ですが、将来的にはテーブルコーディネートの仕事を飲食店に限定していこうと、枠にはめて考え ているわけではありません。できれば、飲食店はもちろん、ホテル・旅館、一般家庭の領域に至るまで、幅広いジャンルにおいて、人をもてなすための、楽しい 気分を過ごせる空間づくりができれば、と思っています」飲食店のアルバイトというポジションは、自由な目線で店のオペレーションや接客サービスをチェック できる立場にある。ぜひともその経験を生かして、単にテーブルの上をきれいに飾るだけでなく、そこからさらに歩みを進めて、将来いろいろな飲食業態に適し た店舗の環境づくりのコーディネートまでも手掛けられることを期待したい。