飲食店経営2005年2月号掲載
馬場園 暖子 さん
【略暦】
1973年生まれ、大阪府高石市出身。奈良芸補糎期大学を卒業し、堺市の洋菓子店に就職するが、トータルな視点からケーキの商品化をしたいと希望。ジャパ ン・フードコーディネーター・スクールの藤原勝子校長の著書に共感し、94年に同校に入学する。その一方で「タイユバン・ロブション」(現「シャトーレス トランジョエル・ロブション」のブティックでアルバイト。当時、パティシエのスタッフだった安秀さんと出会い、95年に結婚。97年に櫛兵のセンター南駅 の近くに「パティスリー・メメ」を開業し現在に至る。
横浜の市営地下鉄沿線のセンター南駅の周辺は、この10年ほどの間に開発された、まさに新興住宅地そのもの。初めてこの地を訪れた者は、幼児を連 れたヤングミセスの数の多さに圧倒されるに違いない。そんな若い街に、馬場園暖子さんがご主人の安秀さん(35歳)と洋菓子店「パティスリー・メメ」(以 下メメ)を、センター南駅から徒歩3分ほどのビルのー階に出店したのはー997年9月のこと。当時はまだ駅前でさえ、建物はもちろんのこと飲食店もまばら だったという。それから7年。今では地域に密着した洋菓子店としてしっかりと根を下ろしている。
メメの店内に一歩足を踏み入れると、お客はあふれんばかりの華やかで楽しいディスプレーと「いらっしゃいませ」と言う明るく澄んだ馬場園さんの声 に迎えられる。店内には、盛りかご、プラスチツク製バツグ、みつばちポット、ジョウロなどのかわいらしい容器に詰められた菓子が彩り豊かに棚いっぱいに飾 られている。まるでおもちゃ屋さんに来たのかと錯覚してしまいそうだ。さらに正面に設けた生菓子用のショーケースの中には、フルーツのピュレや卵を用いた ピンク、グリーン、イェローなどの淡い色使いをしたケーキが焼き物のカップや紙のトレーにかわいらしくデコレーションされている。「いちごのトルテ」とい 名のケーキには、イチゴの上に生クリームとチョコレートでいろいろな表情の顔が描かれていて、小さな子どもでなくても、どれを選んだらよいのか目移りして しまいそうだ。こんなケーキやデコレーションを一度目にした小さな顧客は、きっと確実にリピーターになるに違いない。
その一方で、「ショコラ・フランボワーズ」や「抹茶のオペラ」といった大人のケーキもあり、さらにー個158円のシュークリーム「パイシュー」な ど、手ごろな価格の商品も並べ、日常的に誰でも気軽に来店できる気配りもされている。「開業当初は、主人のキャリアを生かした大人のケーキが多かったので す」「タイユバン・ロブション」で修業したパティシエであれば、最先端のケーキを提供したいという気持ちが優先したとしても無理はない。20代半ばの馬場 園さんにしても、夫が作った最新のケーキを食べてほしいという気持ちが優先してしまっても少しもおかしくはない。しかし、小さな子どもを持った若いファミ リーに受け入れられるかとなると語は別だ。当初は、そうした顧客との意識のギャップに悩んだそうだ。そうした状況も夫妻に子どもが生まれたことで解消され た。馬場園さん白身が、子連れのお客と同じ視点に立ってケーキを見られるようになったからだ。つまり、メメに対して同地のニューファミリーがどういうケー キを求めているのかを、夫妻は思い描けるようになったのである。まさに、この街におけるケーキのコーディネートが実践されたといってよい。
馬場園さんは、ケーキ作りが大好きで洋菓子店に就職した。しかし、商品という観点からケーキを見たときには、ケーキ作りの技術以外にネーミング、 パツケージ、プレゼンテーションなど、たくさんの要素があることに気付いた。そして、ケーキをもっとトータルにとらえられる仕事に就きたいという気持ちに なったという。毎日、ケーキ作りをしつつ、どうしたらそういう仕事に就けるのか思い悩んでいた。そんなときに、目に付いたのがジャパン・フードコーディ ネーター・スクールの藤原勝子校長の著書だった。その著書に触れて、フードコーディネーターの存在が自分の求めている仕事とピタリと重なった。94年に上 京し、恵比寿のタイユバン・ロブションのブティツクで販売のアルバイトをしながら、同スクールに入学。フードビジネスにおけるコーディネートの大切さを学 び、身に付けた。
そして、パティシエだった安秀さんと22歳で結婚。24歳でメメを開業し、オーナーとしてフードビジネスのコーディネートをする立場になったので ある。メメでは週末になると、バースデーケーキの予約が10件を下らない。さらにピアノの発表会や卒園式なども多く、子どもたちへのプレゼントとして、同 店のかわいい容器に詰めた菓子はとても人気がある。もし、これが単にケーキがおいしいだけだったら、こうした注文はまず得られないに違いない。馬場園さん 夫妻を中心にスタッフを交えて、日ごろからどんな容器が子どもたちに喜んでもらえるだろうかと、包材を探し求め、ディスプレーに力を入れてきた賜物といえ よう。
さらに、馬場園さんは来店客と必ず二言三言言葉を交わす。子どもについての話題も多い。そうしたときに世、店の主人と顧客というよりも、むしろ母親 同士の会話そのもの。そうしたコミュニケーションが地域密着型の店にはとても大切であると、馬場園さんは認識できるようになった。そして買物を終えて帰る 際には、顧客の一人ひとりに深くおじぎをしながら「ありがとうございました」とあいさつすることを忘れない。そもそもは、ほかの店で自分が同様のあいさつ をされてとても気持ちが良かったからだという。このように、馬場園さんは自分がよかれと思ったことは取り入れていく。そうした柔軟な姿勢が、メメのフード ビジネスのコーディネートに結び付いている。