飲食店経営2005年5月号掲載

附田 美奈子 さん

【略暦】
1971年、北海道・苫小牧生まれ。父の転勤により札幌を経て、高校2年より千葉・船橋に住む。幼いころよりケーキ作りに興味があったことから、パティシ エの道を進むか進学かで迷った末に進学を選ぶ。卒業後、2年間のブランクを間に挟み1年間損保会社に勤務。会社勤務の最後の1年間に「ジャパン・フード コーディネーター・スクール」に通い、フードビジネスの世界に入る準備をする。2004年春に「100%チョコレート・カフェ」のスタッフ求人に応募。同 年8月付で副店長として入社。開業準備の段階から主にフード作りを担当し、現在に至る。


 街にはそれぞれに固有の顔があり、個性があったが、ここ数年、街の様相が一変し、オフィス街と繁蕃がボーダーレスになってきた。銀座と日本橋の中 間に位置する京橋エリアも、どちらかというとオフィス街としての色合いが濃かったが、コーヒーショップなどの飲食店が目立つ傾向にある。そうした傾向に拍 車を掛けたのが、2004年12月初旬に開業した「100%チョコレート・カフェ」である。明治製菓が本社ビルの建て直しに伴い、新たに出店したチョコ レート専門のカフェである。オフィス街には縁の薄い女性たちが、面白いようにこの店に吸い寄せられていく。そのカフェで副店長として活躍する附田美奈子さ んに今回は登場願った。

 

 附田さんは幼いころから白宅でケーキ作りに親しみ、将来の選択肢の一つとしてパティシエになりたいと考えるようになった。しかしその一方で、興味 があった英語の力を伸ばしたいという気持ちも強く、結局は進学の道を選択し、新卒として損保会社に就職。5年間勤めたころに、このままずっと勤めていてよ いのか、という疑問を抱くようになった。そこで、会社を辞めてリセットし、自分を見直そうと判断した。

 

 ニュージーランドでホームステイを経験。ケーキ作りの機会が多かったことから、洋菓子に対する関心がまた大きく膨れ上がり、パティシエになりたい と志望するようになった。だが帰国後、パティスリーの面接を受けたところ「体力に自信はあるかとか、重いものは持てるかといった質問ばかりでした」。イ メージとの落差が大きく、洋菓子店で修業しパティシエになる道は断念した。その後2年間を過ごして預金も残り少なくなったことから、損保会社に再就職し、 さらに5年の歳月が流れた。しかし、その間も附田さんの胸のうちには、飲食店の世界で仕事をしたいという気持ちは常にあった。

 

 「そこでジャパン・フードコーディネーター・スクールに通い、新たな進路を探すことにしました」。
その時期に出合ったのが「100%チョコレート・カフェ」のスタッフ募集。菓子メーカーが打ち出したチョコレートのスペシヤリテイカフェである。365 日、朝から夜まで、その時々に合わせていつでも楽しく味わえるチョコレートをコンセプトにしている。同カフェの総責任者である明治製菓の片桐裕之氏が同ス クールの講師であったことにも親近感を覚えた。募集は店長候補だったが、経験のない附田さんはクルーとしての採用を希望。結果、副店長として8月1日付で 採用された。プロジェクトはー年前から動きだしていて、附田さんが入ったときは開店まであと4ヵ月のカウントダウンが始まっていた。

 

 同店のプロジェクトではデザインプロデューサーに安東孝一氏、スタイリングの西村千寿氏、商品開発は小黒きみえ氏、グラフィックデザインがグルー ヴイジョンズといった、今を時めく売れっ子のクリエーターがコラボレートしていた。そうしたクリエーティブスタッフの仕事ぶりを問近に見ながら、附田さん はどんどんこの仕事に興味を覚えていった。チョコレートのことを理解するために、明治製菓の食品総合研究所に出向いてレクチャーを受けた。そして商品が具 体化されると、そのレシピを頭にたたき込んだ。チョコレートは決して目新しい素材ではなかったが、附田さんはその奥深さに惹かれた。

 

 12月に入り、開業が間近になると、その準備に明け暮れた。そして、開業するや連日満員の盛況。その分、お客からのクレームも相次いだ。混雑のた めにゆったりと落ち着いて飲食ができなかったり、品揃えの豊富さで人気の56種のチョレートも、お客が商品を選ぶのに時間がかかってしまう、など。附田さ んたちレギュラースタッフは、順番待ちをしているお客が気分を害さないように気を配る一方で、衛生管理の徹底に努めた。「8時の営業開始に問に合わせるた めに、4時半起きして6種類のクリームを仕込む毎日でした」4ヵ月を経て、スタツフも仕事にだいぶ慣れてきた。ただ暑い夏場を控え、フレッシュクリームを 多用する商品の衛生管理も欠かせない。「このチョコレート・カフェはとっても魅力があり、いろいろな可能性を秘めています。しかし適正なスタッフやコマー シャルベースに乗せるなど、クリアしなければいけない課題はたくさんあります」そうしたハードルを一つ一つクリアしつつ、56種のチョコレートに精通した チョコレートのソムリエとして、独自の世界を切り開いていきたいと、附田さんは一層の意欲を見せている。