飲食店経営2005年6月号掲載

高桑 みき子 さん

【略暦】
1977年、茨城県かすみがうら市生まれ。アスリートの管理栄養士にあこがれたのをきっかけに、96年聖徳大学短期大学部生活文化学科入学。栄養士の資格 を取得し、卒業後は同学研究室で3年間副手を務める。その間にジャパン・フードコーディネーター・スクールに通い、フードコーディネーターの資格を得る。 2000年(株)大庄に入社。食品衛生研究所に配属。NPO法人サニテーションデザイナー協会にてサニテーションデザイナー・シニアの資格を取得。現在大 庄各店舗の衛生管理の指導に当たる。オフには、親子の食育教室”フード・アドベンチャー・キッズ”の活動にも携わる。


 高桑みき子さんの名刺を見ると、大庄の食品衛生研究所の下に、栄養士、フードコーディネーター、サニテーションデザイナーという3つの肩書きが並 ぶ。研究所での主な仕事は、大庄が運営する各店舗の衡生管理のチェックとその指導だ。飲食店で、一番おざなりになりがちな衡生の、いわばお目付け役だ。大 庄の食品衛生研究所は、1990年に東京・大森に開設。その後、東品川にある大庄物流センタービルの4階に移転し、安藤洋次所長以下9人の陣容だ。現在、 増改築中で、アレルギー、遺伝子組み換え、バイオハザードの分野までもカバーする最新設備に生まれ変わるという。高桑さんたちの活動も、さらに充実するに 違いない。

 母校の研究室で副手を務めていた高桑さんは、2000年に大庄に入社し、食品衡生研究所に配属された。入社する前までは、食べ物を検査するという 点では栄養士も衛生管理の仕事もあまり変わらないのでは、と内心思っていたそうだ。ところが、その内容はまったく違った。入社後半年間は、食品衛生の勉強 と検体の採取法のトレーニングに明け暮れた。そうした厳しい状況を経て、今では4つの業務を担うまでになった。
その4つの業務とは、1)担当店舗を巡回して、衛生管理の状況をチェックし、サンプリングして検査結果を出し、それに基づく指導、2)週-回の食材の品質 検査、3)HACCP会議および中部地区の衡生管理の勉強会、4)食材に関する衡生管理マニュアル作成。一番ウエートの大きいのは、1)の現場のチェッ ク。毎月8~10店舗を巡る。「店長、料理長、エリアマネジャーの立ち会いの下で実施。1日に2店をチェックします」検査用具一式を携帯し、「SD査察評 価システム」(2枚)というチェック票に記載されている項目をチェックする。同時に、3アイテムの食材を含め、料理長の手やざるなどの3アイテムのサンプ ルを採取して持ち帰る。評価システムのチェック項目は、手指の洗浄などの個人衡生、清掃や害虫などの環境衛生、厨房衡生、グリストラップや洗剤の濃度など の施設の管理など。さらに、HACCPに基づいて作成した衛生管理に関する「温度管理チェックリスト」「料理の仕込み管理シール」などの PP(PrerequisitePrograms”一般的衛生管理要件)に基づき、客席フロアとパントリーについては店長、厨房については料理長、それぞ れから事情を聞き、その上で改善策を指導する。

 「現場の皆さんは、私よりも年長で、なおかつキャリアを積んだ方たちです。ですから、この仕事に就いたころは、どのように切り出したらよいか、 迷ったことも多々ありました。しかし、ジヤパン・フードコーディネーター・スクールで学んだオーガニックなどの考え方を安心・安全な食事と結び付けて説明 するなど、現場の担当者とコミュニケーションを取るのに、とても役立っています。そして、おのおのの立場を認めた上で、伝えるべきことはきちんと伝えるこ とができるようになりました」持ち帰ったサンプルは、翌日、各サンプルについて、一般生菌数と大腸菌などの検査をする。3日後に検査して判定を出し、その 店の店長に電語。ここでもまず状況をヒアリングして、原因を突き止め、改善を指導する。そして、衛生管理が行き届いていなかった店舗に関しては、指導を徹 底させ、抜き打ちで再検査し、責任者を教育する措置を取ることもあるという。「まず、予防が第一です。それには、日ごろのチェックを責任者が自分一人の仕 事にせず、パートやアルバイトにも振り分けて実施するのが一番効果があります。全員に問題意識を持ってもらえるように指導することを心掛けています」

 研究所の仕事に慣れたころに、より衛生管理のスキルアップを図るため、安藤所長が代表を務めるNPO法人サニテーションデザイナー協会の講習を受 け、サニテーションデザイナーの資格を取得。同資格は、公衆衛生、食品衛生、環境衛生の管理指導を目的としており、高桑さんの仕事とぴったり重なった。食 品は、環境の変化からある日突然問題が発生する。例えば、カキなどの2枚貝から多く検出されたノロウイルスもその一つだ。「既にメニューも決まっている状 態で、ノロウイルスの対策をどうすべきか、慎重に検討を重ね、その結果、メニューから外すように提言しました」このところO157、牛海綿状脳症 (BSE)、E型肝炎、残留農薬など、食材がらみの新手の問題がめじろ押しだが、高桑さんはそうした最新の情報を入手して、どのような対処をすべきかを、 常に考えているという。これからの飲食店チェーンにとって、衛生管理はますます欠かせないものである。高桑さんの活躍に期待したい。