飲食店経営2005年7月号掲載

いちかわ りさ さん

【略暦】
1974年、神奈川県生まれ。小学生の時に名前入りの出刃包丁をプレゼントされるほどに料理好きな家庭に育ち、常に「食」への関心を高めてきた。93年慶 応義塾大学に入学。総合政策学部にて組織・人事を専攻。97年大手電機メーカーに入社。人事部にて、キャリア開発プロジェクトのチーフになる。2000年 人事および組織戦略のコンサルティング会社に移り、企業の人事コンサルティングに従事。01年コーディネーター資格を取得。同年、フリーランスのフードビ ジネスコーディネーターとして飲食全般のコンサルティング活動を開始。「食」に関心を持つ「人」のネットワークの組織化に力を入れる。


 飲食店の経営にとって、人材の問題はとても比重が大きい。企業が成り立つには、人・物・金が必要といわれるが、労働集約産業である外食業にとっ て、人の問題は常に付いて回る。長時問労働の割に報酬はほかの業種と比べると低い。そうした労働環境にあって、いかにスタツフがモチベーションを高めてい けるか、また、会社がそれをいかにフォローできるか。この問題をきちんととらえている企業はまだまだ少ない。そうした飲食業界に、人材育成という視点から ビジネス・コーディネートに取り組んでいるのが、「ハツピーフード」の代表を務めるいちかわりささんである。いちかわさんは、「ハッピーに食を語り、刺激 をし合い、ハッピーな食を伝え、育てていくためのコミュニティ」として、ハッピーフードを立ち上げ、飲食店がハッピーな食を提供するには、まずスタッフが ハッピーでなければいけない、というスタンスに立ち、店舗の業態開発や新商品開発を提案し、利益の上がるビジネスモデルを構築している。

 いちかわさんは大学で組織・人事を専攻。会社という組織の中でいかに社員個々の能力を引き出し、適正に機能させていくか、さらにはキャリアを伸ば していけるかをデザインすることをテーマにしてきた。そのテーマを就職先の大手電機メーカー.の人事部でチーフとして実施。3年間在籍した後、自身のスキ ルアップを図るためにコンサルティング会社に転職。特定の組織に長く籍を置くことにより、白分の思考が固定されてしまうからと、外側から各企業を見ること にしたのだそうだ。しかも、コンサルティングの会社には、あえて契約スタッフとして身を置き、その次のステージヘの準備段階と位置付けた。そこでは、都市 銀行や食品メーカーなどをコンサルティングするプロジェクトの一員として経験を積んだ。そして、そのコンサルティングの仕事にかかわる傍ら、2000年に ジヤパン・フードコーディネータースクールに入学し、フードコーディネーターの勉強に励む。

 「私にとって、フードに携わるさまざまなキャリアの方々を知る機会を得られたことが大きかった」一口にフードコーディネーターといっても、そのと らえ方は多種多様。スクールに通うことにより、そうしたいろいろな視点を持った人材との交流が生まれた。ハツピーフードの固定スタッフにはスクールで知り 合った者もいるという。2001年、独立しての初仕事は食品メーカーからの依頼によるグループインタビューの仕事。当初は、インタビューするだけの契約 だったが、提案によりそのリサーチ結果のプレゼンテーションを実施。好評を得た。その仕事でコンタクトを得たセールスプロモーションの会社からその後も仕 事の依頼が継続してある。かと思うと、たまたま紹介された企業から、韓国に和食ダイニングレストランを開業するので、その商品開発を担当してほしいという 仕事など、人とコミュニケーションを取ることにより仕事の領域も広がった。結局、韓国のダイニングレストランでは単に商品の開発をするだけではなく、韓国 人スタッフの教育、さらには店舗全体のコンセプトづくりにまで仕事が拡大し、オープンにこぎ着けた。

 「単に、商品の開発を受けても費用対効果は小さいですし、請け負ったこちらも達成感を得たスタッフの教育も商品もすべてリンクさせた方が効果的で す」以後、小売業、食品メーカーやホテルチェーン、外食チェーンなどの総合プロデュースを請け負う方向へと大きくかじを取る。当面、いちかわさんが抱えて いる一番大きな仕事は、大手外食企業が今夏、新宿の高層ビルに展開する定食店の業態開発。昨年末に突然、担当者から依頼の電話が入り、引き受けることに なった。ただし、当初、商品開発をしてほしいという依頼だったことから、業態開発までも含めることを前提に、コンセプトを組み立てて、数度のプレゼンをク リア。2月中旬に担当役員に最終のプレゼンを済ませて正式に契約を交わした。8月の開業に向けて、調理の責任者と商品の試作を繰り返しつつ、店舗の造作の 打ち合わせや現場スタッフのトレーニング用マニュアル作りなどに追われている。

 こうしてフードビジネス.・コーディネートの仕事を手掛けているいちかわさんの強みは、自身に欠けている部分をハッピーフードのほかのメンバーに よって補完できることだ。現在、5人の固定メンバーのほかに20~30人メンバーが登録されている。もし何か新しい仕事が入ったら、その内容に一番適した メンバーを募り、タスクフォースを組むことができる。フランス料理、タイ料理、韓国料理などの調理担当、店舗やカメラマン、ライターなどその専門分野も多 彩だ。さらに、ホームページのコミュニティーサイトで募った主婦約2000人が登録されていて、アンケートなどもすぐに集約できるほどの機動力を発揮す る。こうした「食」に関してあらゆる角度からとらえ、新たなビジネスモデルを提案しているいちかわさんが、フードコーディネーターとしてシューティングス ターとなることを期待したい。