飲食店経営2005年8月号掲載

沢田 けんじ さん

【略暦】
1968年、兵庫県宝塚市出身。辻調理専門学校を卒業後、同校フランス校に進む。辻調グループ調理部西洋料理班に勤務し、助教授を最後に退職。その間に、 南フランスの「ムーランドムージャン」、リヨンの南にある「ラ・ブルボネーズ」で働く。2000年、カフェサンク(兵庫・西宮市)の開業時より2年間シェ フを務める。03年に上京し04年より1年間「ジャパン・フードコーディネーター・スクール」で学び、05年から東京を拠点にフードビジネス・コーディ ネーター料理研究家として本格的に活動を開始。


フードビジネス・コーディネーターはこれまで、料理雑誌やテレビ番組で料理をセンスよくテーブルにセツティングするテーブルコーディネーターとさ れる傾向が強かった。そのため、フードビジネス・コーディネーターというと、もっぱら女性の仕事ともされてきた。しかし、最近は「ジャパン・フードコー ディネーター・スクール」などの活動を通じて、フード・ビジネスコーディネーターの存在が広く認知されるようになってきた。テーブルセッティングはもちろ んのこと、今ではレストランの料理の開発や店舗のプロデュース、食品会社の商品開発など「食」の全領域をフォローする存在として認知されてきた。そのよう に広く認知されつつあるフードビジネス・コーディネーターだが、残念ながらレストランの実務経験を持ったフードビジネス・コーディネーターの存在は少な い。

確かに、人気のあるレストランや料理店のシェフがファミリーレストランやコンビニ、製菓会社などの企業から新商品の開発を依頼されるケースが見られる。 これも、豊かな実務経験を生かしてのフードコーディネートには違いないものの、これはフードコーディネートという意味合いよりも、そうした料理人や店の ネームバリューに便乗した商品の話題づくりに主眼を置いていることは明白だ。レストランでシェフを務めた人材で、フードビジネス・コーディネーターをうた う存在はほとんどない。しかし、レストランでシェフとして実力を発揮した手腕を生かし、本腰を入れてフードコーディネートしたら、きっと顧客の満足に十分 応えられる商品を生み出すことができるに違いない。

 そんな思いを描いていたら、まさにぴったりの人物が現れた。今回紹介する沢田けんじ氏である。同氏は、大阪の辻調理師専門学校を卒業後、同校のフ ランス校でフランス料理の技術を身に付けた後、本校とフランス校で学生にフランス料理を教えてきた。その問、フランスのレストランに入って、より実践的な 料理テクニックを習得。そして31歳の時に、兵庫県西宮市のカフェの開業時にシェフに就任し、約2年問務めた。「当時の私の目標は『何か面白い仕事をした い』ということでした」シェフとしてのこの2年問の経験は大きかった。単においしい料理を作るだけでなく、原価率を考えつつ、顧客を獲得しなければ店が成 り立たない。顧客に好評を博すと同時に、利益の追求が求められる。」 こうした幾つものハードルをクリアして初めてシェフといえる。きっとこの2年間に、沢田氏は高いハードルをクリアしてきたに違いない。そうした思いがあれ ばこそ、沢田氏は「料理」で勝負するならやはりマーケットの大きい東京を舞台にするしかないと確信した。

 同時に沢田氏は自分の東京での進路として、レストランの料理人ではなく、一般の人たちを対象にした料理教室での講師とレストランなどの企 業の商品開発を主要業務にすることにした。「東京のレストラン市場はとても魅力的です。同時に、関西からポッと出てきて成功するほど甘くはない。そこで、 私にしかできないフードビジネス.コーディネーターの道を目指すことを思い立ったのです」 2003年に上京し、自分で売り込みを行い語学学校のフランス料理の教室の講師などをしながら、都内の「食」の状況をチェックしてきた。そうした日常を過 ごす間に知ったのがジャパン・フードコーディネーター・スクールだった。料理の世界に籍を置いてはいても、フードビジネス・コーディネーターという職種が どのように機能しているかを知るには、まずはスクールに入るのが一番の早道と沢田氏は判断し、04年に入学。授業では、沢田氏がこれまでにかかわってきた シェフの立場とは異なる食へのアプローチを身に付けた。

 現在、井上絵美氏が主催する「エミーズ」の料理教室の講師として若い女性たちに料理を教えると同時に、3期目を迎えた”食のプロを目指す方のため のスクール”「エコールエミーズ」の講師も兼務している。そうした料理教室の講師を務めるとともに、エミーズの施設を活用して、週1回予約制のレストラン の料理も担当している。 沢田氏が得意な素材である牛ホホ肉やホタテ貝などを自在に調理して、若い女性客に好評を博す。

「レストランのシェフとして料理作りに専念するよりも、おしゃべりを交えながら料理を教える方が私のキャラクターに合っています。今は、料理を通して自分 の名を世の中に知らしめたい。当面の目標は料理の本を沢田氏が手掛けた料理の一列。左がコーンとレモンのリゾット。仕上げにトッピングしている。右は牛ホ ホ肉の煮込み。ズッキー二、キヌサヤ、三アピオスを使用。市場にはよく顔を出し、目新しい食材があると樹亟的に企画すること」と沢田氏。そして、白身の存 在をアピールするために、「お客さまをあっと言わせるようなスペシャル料理を創作したい」とも語る。果たして、どのような沢田スペシャリテを生み出そうと しているのか、大いに期待するところである。そして一日も早く、料理書の刊行を現実のものとしてほしい。