飲食店経営2005年11月号掲載

大関 友美乃 さん

【略暦】
1968年生まれ、東京都出身。戸板女子短期大学卒業後、会社勤めを経て、ジャパン・フードコーディネーター・スクールの第1期生として入学。在学中よ り、(株)トレッドアソシエイツ(現味の素コミュニケーションズ)に籍を置き、宮地真紀子氏のアシスタントとして経験を積む。ニューヨークに遊学の後、 (株)トレッドアソシエイツに再入社し、店舗やメニューの開発に携わる。95年、大関仁さんと結婚し、一時育児に専念。99年、仁さんとともに新調理シス テムを活用するフランス料理店「ラ・メゾン・ド・オオゼキ」を開業。並行して「スチコン塾」を主宰し、調理セミナーの企画・運営や後進の指導に当たる。


 
黄金色の衣をまとった熱々のチキンカツレツ。衣は軽く、鶏肉はジューシーで柔らかく、 揚げ物に特有の重たさは感じられない。これが、大関仁・友美乃夫妻が1999年にオープンした「ラ・メゾン・ド・オオゼキ(以下オオゼキ)」で提供しているチキンカツレツだ。
 
このチキンカツレツは鶏肉に下味を付け95度の下加熱、パン粉付けをした後、真空パックをして急速冷却器にかけて冷凍保存されている。注文が入っ たら、その都度スチームコンベクションオーブンで再加熱し、付け合せの野菜を添え、ソースを掛けて完成。こうしたクイックサービスができるものも新調理シ ステムを取り入れているからだ。オオゼキの厨房は、普通のフランス料理店の厨房設備とはだいぶ趣が異なる。真空包装機、スチームコンベクションオーブン、 ブラストチラー/ショックフリーザー(急速冷却器)が並び、別室にはストック用大型冷凍庫を設備。これらの機器を駆使して、オーナーシェフの仁さんは新調 理システムを活用した料理を提供する。さらに「スチコン塾」を主宰して、新調理システムの活用法を食品メーカーや外食企業などに指導したり、機器活用のた めのセミナーを開催する。友美乃さん自身は、フードコーディネーターとしての経験を生かし、仁さんの活動がより円滑に進むようにプロデュースをしている。

そもそも新調理システムというのは、真空包装した食材を湯煎器やスチームコンベクションオーブンで95度以下の温度で加熱調理する真空調 理法や、加熱調理した食品を急速冷却してストックし、再加熱する調理法の総称である。ビーフシチューなどのように数日を要する料理や一度に大量の仕込みを するのに適し、仕込み作業と提供作業を分離させて行うことができる。同時に、温度管理を徹底できるため衛生的という利点がある。そのため現在、食品メー カー、ホテル、学校給食や病院食などの分野で広く導入されつつある。食の安全・安心に対する関心が高まっている昨今、一般のレストランでもそのメリットを 十分に生かすことが可能だ。ただし、オーブンやレンジを用いた従来の調理法とは調理概念が異なり、温度と時間を正確にコントロールできなければならないた め、そういったトレーニングを積んだ料理人でないと調理が難しい。

友美乃さんは短大の生活科を卒業して栄養士免許をもっていることからも分かるように、もともと「食」に関する仕事に強い関心があった。ただそのこ ろは漠然としていたため、卒業後は不動産会社に就職。しかし、ルーティンな仕事の毎日だったので外資系企業に転職。だが、それも自分が進むべき方向ではな かった。そんなときに友美乃さんのお母さんが入手してきたのが「ジャパン・フードコーディネーター・スクール」の開校案内だった。それをきっかけに会社を 辞め同スクールに入学した。「私たちが1期生でした。当時のスクールは味の素系列のマーケティング会社のビル内にあったことから、スクールに通いながら、 同社が企画した有名シェフの料理講習会のアシスタントやフードコーディネーターの宮地真紀子さんのアシスタントをして、スクールと実務の両面からフード コーディネートの仕事を身につけていきました。」そして卒業時にアメリカ人フードコーディネーターのセミナーに参加したのをきっかけに、アメリカにおける フードコーディネーターの仕事を垣間みたいと思いニューヨークで勉強した。帰国後、再度トレッドアソシエイツに籍を置き本格的に飲食店の立ち上げやメ ニューの開発の仕事にかかわる中で、新調理システムによる調理指導をしていた仁さんとで会ったのだった。

仁さんはオーナーシェフとして活躍すると同時に、新調理システムに関係する厨房機器メーカーや外食チェーンのコンサルタントとして活躍。友美乃さ んは、仁さんの活動のコーディネート兼プロデュースをする役割を担う。こうした二人三脚の態勢ができたのを機に「スチコン塾」を立ち上げ、独自に企画した 新調理システムの普及に力を注ぐ。

これまで、新調理システムというとプロの世界の域にとどまっていた。しかし最近は、家庭用の小型スチームオーブンレンジの新製品が次々と発売され ている。家庭レベルにまで新調理システムが浸透していけば、それがプロの世界にフィードバックされ、食の分野全体に新調理システムが欠かせないものになる ことは想像に難しくない。こうしたホームクッキングの分野までも視野に入れたスチコン塾の活動に大いに期待したい。