飲食店経営2006年6月号掲載

廣田 有希 さん

【略暦】
1982年生まれ、東京都出身。実家は築地中央市場の近くで業務用厨房機器販売会社を経営。2004年上智大学を卒業後、実家が経営する会社でネット販売 業務や顧客サービスを担当。同年春、ジャパン・フードコーディネーター・スクールに入学。東急百貨店東横店「東急フードショー」を手掛け、食物販に関する コンサルティングを行うテイク・アソシエの樋口武久社長の授業に感銘し、将来の方向性を相談。それが契機となり、同社のスタッフの一員となる。現在はJR 品川駅構内「エキュート」に立地する、カスピ海ヨーグルトとフレッシュジュースのショップ「メール・カスピーネ」の立ち上げ、店舗オペレーション、および 商品開発を担当。和菓子店のサポート業務や、06年完成予定の商業施設のリーシングにも携わる。

 

2005年10月1日、JR品川駅構内に商業施設「エキュート」が開業。「エキナカ」という新たなマーケットをつくり出して話題を呼んでいる。
同施設には食品メーカー、フジッコがカスピ海ヨーグルトとフレッシュジュースを核とする「メール・カスピーネ」を出店し、新たな展開に踏み切った。プロ デュースを担当したのは、東京・渋谷の東急百貨店東横店「東急フードショー」の開発や「東横のれん街」のリニューアルなどを手掛けてきたテイク・アソシエ の樋口武久氏だ。

 

廣田有希さんは同社のスタッフとして、メール・カスピーネのコンセプト作りから参加。現在もフードビジネス・コーディネーターとして、引き続き店 舗のオペレーションと商品開発を担当している。取材時の4月初旬は、初夏から発売予定のジェラートの新商品開発の真っ最中であった。

新規事業のヒントを得たいとスクール入学へ

廣田さんは、東京築地中央市場と目と鼻の先、晴海通り沿いで生まれ育った。実家は3代続く業務用厨房機器の販売店。物心が付いた時からずっと築地 市場の空気を吸って大きくなった。それだけに、市場の豊洲移転問題も他人事ではない。実家の行く末にも大きくかかわるだけに、市場の移転と跡地の再開発に 関心が向く。
一つ違いのお兄さんは、インターネット機器販売ビジネスを起業し、家業にも波及させ実績を上げていたが、本業の厨房機器販売は築地市場の移転の影響を受けざるを得ない。そこで、廣田さんは家業に関連した仕事を起業したいという気持ちを抱くようになった。
「食関連の分野と家業とをリンクさせて事業を展開させたいという気持ちを学生時代から持っていました」と廣田さん。

 

大学卒業後は社員として実家は経営する会社に入社。実家の同意の下、廣田さんは食物販の事業を立ち上げることを前提にいろいろと情報を収集する中で、ジャパン・フードコーディネーター・スクール(以下、JFCS)の存在を知る。
厨房機器に関しては熟知していたものの、食物販関連のこととなると皆目わからない。目の前に立ちはだかる高い壁を乗り越えないことには、先には進めない、とそんな気持ちから廣田さんはJFCSに入学したのだった。
「少しでもいいから何かきっかけをつかめれば、という思いでいっぱいでした。食に関連する各ジャンルの専門家である講師の方々の講義を受けて、食ビジネスの世界の広さにびっくりしたくらい、当初は何も知らなかったのです」
その時に、自身が強く興味を抱いていたデパ地下や中食分野における食物販プロデュースの授業の講師を務めていたのが、東急フードショーなどのプロデュースを手掛けた樋口武久氏だったのである。
授業に感銘を受けた廣田さんは後日直接面談の機会をもらい、家業のことを含めた自分のおぼろげな希望や意志を打ち明け、アドバイスを求めた。そして「樋口先生の下で仕事をさせていただけませんか」と率直に申し出たのだった。

現場での経験を通じて食物販の仕事を体で覚える

「頭で考えるよりも、まずは現場を知ることが一番。実際に食物販の仕事をしてみて、それでもその希望や意志が変わらなければ、その時にもう一度考 えましょう」と樋口氏から助言を受け、東急フードショーに出店しているお茶漬けと惣菜の「えん」に、アルバイトとして3ヶ月勤務した。
その間も仕事の状況の報告をしに行き、樋口氏も店舗に廣田さんの様子を見に来てくれたという。その間の仕事を通じて、廣田さんの食物販ビジネスへの意志はますます固いものとなり、念願かなって樋口氏の会社での勤務が決まった。

 

最初は週2、3日というペースで始まり、その後は事務所のスタッフとして、クライアントとの打ち合わせに同席。ちょうどメール・カスピーネのプロジェクトが始まったころでもあり、店舗の立ち上げや商品開発のスタッフの一員として仕事にかかわっていった。
開業までの間は、スケジュールに基づいて割り当てられた店舗スタッフのトレーニングと商品開発に明け暮れた。オペレーションのシュミレーションを繰り返 し、万難を排してオープンの日を迎えたが、予想をはるかに超える人の波が押し寄せた。客数にオペレーションがついていかない、想定外の出来事にも直面した が、廣田さんはその都度、対応策を店舗スタッフに指示して場面場面をクリアしていった。
以後、引き続き店舗のオペレーションの指導と、テーマを盛り込んだ毎月3、4品の新商品提案を行っている。そのほかに、和菓子店のサポート業務、来年竣工予定の商業施設のリーシングなどにも参画する。

 

樋口氏の会社に入った当初、廣田さんは家業に関連した事業を展開することを唯一の目標にしていたが、今ではそれも選択肢の一つだと考えるように なったという。「スクールでのさまざまな出会いで、自分の可能性も視野も広がりました。今後もさらに現場で経験を積んで、勉強していきたいと思っていま す。今年の3月には興味のあった中医薬膳師の資格も取得しました。少しずつ実績を積み重ねていく中で、自然と自身の仕事のスタイルができてくると考えてい ます」と廣田さんは一歩ずつ、だが着実に歩を進めている。