飲食店経営2006年9月号掲載

松田 美穂 さん

【略暦】
1974年生まれ、東京都出身。97年に慶應義塾大学文学部を卒業後、東京海上火災保険㈱に4年間勤務。かねてから広報業務を志していたことから転職を決 意。㈱USEN、日本料理店「鉢の木」にて広報業務を担当する。飲食ビジネスの知識をさらに深めるべく、2004年にジャパン・フード・コーディネーター スクール(JFCS)に入学。並行して食のプロ養成スクール「エコール・エミーズ」にも通い、ビジネスと調理技術それぞれ両者を学ぶ。05年春、青山にあ る老舗イタリア料理「サバティーニ」を経営する東京サバティーニ・インテレスト(株)に入社。現在は営業推進部販売促進広報課にて、同社の広報業務全般を 担当している。

今回は、企業内スタッフとして広報業務に従事する松田美穂さんに話しを伺った。現在、松田さんが勤めているのは東京・青山にあるイタリア料理店 「リストランテ・サバティーニ」はじめ、カジュアルレストラン&デリ「ジョベントゥ・サバティーニ」などを展開する東京サバティーニ・インテレストであ る。 25年前に、リストランテ・サバティーニは青山にオープンした。当時は都内でもリストランテと呼べるイタリア料理店は皆無に近かった。まだトマトケ チャップで味付けしたナポリタンが全盛だったころのことである。

そこに、ローマから三ツ星レストランがやってきた。その衝撃はとてつもなく大きいものだった。その後ピッツェリアやバールの出店など、ゆっくりで はあるが着実に布石を打ってきた。そんな同社にとって昨年は一つの転機の年だった。25年の歴史を誇る青山のリストランテとピッツェリアのリニューアル、 さらに若い客層も気軽に利用できるカジュアルタイプの新業態ジョベントゥ・サバティーニの出店と大型のプロジェクトが立て続けに行われたからだ。

松田さんはその忙しいさなかにサバティーニグループの一員になった。最初に手掛けたのは、フラッグシップともいえるリストランテのリニューアルオープンの準備だった。
100人ずつ2回にわたって催すプレス向けのレストランのために、PR会社とともにゲストのセレクトから、当日提供されるコースメニューの構成の検討、招 待状の文面の考案・発注・発送作業。その一方で、当日の段取りを組み立てて厨房とフロアスタッフに周知徹底してもらうなど、期日が決められているだけに時 間に追われた。こうして準備万端整ったレセプションは成功裏に終了。翌日顧客向けパーティーでは、司会も務めた。

さらに同時進行で、新業態ジョベントゥ・サバティーニ4店舗の立ち上げ準備も着々と進めていったのは言うまでもない。

「これまでの経験とジャパン・フードコーディネーター・スクール(JFCS)」の授業で学んだ蓄積が私の中に既にあったので、入社直後でもあまり 戸惑うことなく、他のスタッフと連携してこれら一連の仕事をやり遂げられたのでしょう」と松田さんは、少しのてらいもなく落ち着いた口調で物語る。

広報業務に魅力を感じキャリアを積む

松田さんは大学を卒業後、東京海上火災保険に丸4年間勤務した。広報業務を志望していたが、異動の見通しは中々立たなかった。そこで将来について いろいろと思いをめぐらせている時に、知人から「広報業務を目指すのであれば、現在の仕事から離れてみるのもいいのでは」というアドバイスを得た。

そこで松田さんは広報の職種に絞り込んで転職活動を行い、USENに移った。USENでは広報業務の基本を学び、ちょうど上場直後の時期でもあっ たことから、宇野康秀社長をはじめ経営陣とともに仕事をする中で多くのものを吸収することができたという。そこで身に付けた広報業務のスキルを、もともと 自身の食への関心が高かったこともあり、外食業界で生かしたいと考えるようになった。そこで決めたのは、鎌倉で3店舗を展開する「鉢の木」。松田さんは1 年半の間、同店の藤川譲治社長の下で企画、広報の仕事に従事しつつ、飲食ビジネスへの興味を一層深めていった。

目指すはフードビジネス界のチアリーダー

外食企業で広報業務を担当する上でもっと知識を身につけて、充実した仕事をしたい。そんな気持ちから松田さんは鉢の木を退職し、04年JFCSに入学。

「JFCSでは、飲食ビジネスにかかわっている講師の方々から、現場に即した話しをたくさん伺うことができました。例えば中食の物販事業の立ち上 げについての授業は、現在ジョベントゥ・サバティーニにおけるデリの販売に大いに役立っている。そうした授業で、松田さんは料理人でなくても飲食にかかわ る者は調理のことはもちろん、素材のこと、料理が生まれた文化背景なども知らなければいけないことを教えられた。そこで調理技術の面でも知識を深めるべ く、食のプロ養成スクール「エコール・エミーズ」の門をたたき、JFCSと並行して半年間受講した。

スクール卒業後入社した東京サバティーニ・インテレストでは、販売促進広報課のスタッフは2人。現在17店舗を展開する同社の広報担当は、松田さ んが主に担当している。仕事を進める際にはスタッフとのコミュニケーションを密に、モチベーションを高めることに気を配る。情報収集のために日々イタリア 料理店を巡り、調理スタッフがメニューを決める際には相談を受けたり、時にはほかの店の視察にも同行する。そうした行動の積み重ねが、スタッフからの信頼 につながっている。「広報という仕事は、ここまでという区切りはないものだと思っています。対外的に情報を流していくには、まず社内のコミュニケーション ができなければ、とも思います。ですから社内スタッフとして、一つの組織によりコミットしたスタンスで広報活動をしたいのです」

松田さんは、料理人はもちろんソムリエ、サービスマンなどのスタッフに脚光が当たるように考えながら、メディアなどの外部との窓口になり、縁の下の力持ちとしてフォローすることを自分に課している。
 「飲食ビジネスの橋渡し役」、フードビジネス界のチアリーダーを目標にしています」と松田さんは、明るい口調でインタビューの最後を締めくくってくれた。