飲食店経営2006年10月号掲載

坂上 のり子 さん

【略暦】
鹿児島県出身。短大を卒業後、大手アパレルメーカーに入社し、秘書室に勤務。退社後、アパレルの企画開発&販売事業を手掛ける。(株)ヰノセントをご主人と立ち上げる。1992年、ジャパン・フードコーディネーター・スクールの第一期生として入学。93年、東京・代官山に洋服と雑貨の店「ニーム」を出店。続いて「マリン・フランセーズ」「プチブルー」「フレンチライン」「エキペ」「ナチュール」「カンパーニュ」などのブランドとショップを次々とヒットさせ、グループ年商50億円の企業に成長させる。現在ヰノセントのグループ企業で小売業務を統括する(株)ドゥ・ニームの代表取締役社長で、各ショップの企画とバイイングを担当。


 カフェレストラン「カフェ・ド・カンパーニュ」がJR恵比寿駅西口から徒歩7、8分の駒沢通り沿いにオープンしたのは2002年のこと。
通りに面した開放感のあるテラスとヨーロッパで買い付けたアンティークが飾られた店内は南仏の街中のカフェをほうふつとさせる。隣接する雑貨店「カンパーニュ」にも非常にシンプルな、オリジナルを中心にヨーロッパで買い付けた品々が並ぶ。 
これらはフレンチカジュアルのアパレルメーカー「ニーム」「マリン・フランセーズ」などの店舗展開で支持を集める、ドゥ・ニーム代表取締役の坂上のり子さんが手掛けた飲食店第1号である。

語学留学を契機に南仏の生活に目覚める

坂上さんは大手アパレルメーカーの社長室で4年間勤務した後、イギリスとスペインに語学留学のために都合2年間渡欧。その間に何度も、南仏の小さな街を訪れた。そうした中で、何気なく触れた街の風景や、人の生活の中にごく自然に溶け込んだ文化的な薫りに引きつけられていった。 

「前掛けを掛けた八百屋のおじさんが、仕事が終わり、夜になるとスーツに着替えてオペラを見に行き、バールでゆったりとグラスを傾けている。いいなあと思いました」と坂上さんは当時の感動を昨日のことのように熱く語る。 
そして、そうしたライフスタイルを日本にも根付かせられないかしら、という思いが坂上さんの心の中に刻まれた。帰国後は外資系企業などの勤務を経て、アパレルの企画販売卸会社であるヰノセントをご主人と立ち上げた。当時、同社は大手アパレルメーカーなどの得意先に企画提案を行っていたが、仕事を続けていく中で、より独自性のあるビジネスに進出したいと考えるようになった。 
坂上さんは、そこまで来てはたと行き詰まる。事業計画書を記した企画書を、どのように書けばよいのか分からなかったからだった。 
そんなときに当時恵比寿にあったジャパン・フードコーディネーター・スクール開講の文字が目に飛び込んできた。即入学を決めた坂上さんは企画書の書き方はもちろん、プレゼンテーションの仕方など、現場の第一線で活躍する講師陣の授業を一言も聞き逃すまいと受講した。 
そうこうするうちに、チャンスが飛び込んできた。代官山の物件に空きが出ることになったのだ。早速事業計画書と企画書を作成して、銀行の融資窓口に何度も足を運んだ。 
数回のやり取りを経て、無事3000万円の融資が受理されたのである。しかも、無担保。 
破格の条件だった。 
坂上さんは、すぐに店舗の契約を済ませ、デザインや造作を決めつつ、バイヤーとしてフランスに買い付けに飛んだ。そうして誕生したのが、雑貨と洋服を融合した代官山「ニーム」だったのである。

路面にこだわり恵比寿、代官山に集中出店する。

代官山の持つ街のイメージと坂上さんが店舗で提案するフランスのライフスタイルが若い女性客の心をとらえ、その後事業は順調に右肩上がりで進んだ。 
ちょうど代官山と恵比寿の街が大きく変わろうとしていた時期とも重なり、地元で長く商売をしてきた地権者や物件の所有者から借りてくれないか、という声を掛けてもらえた。「現在、恵比寿・代官山エリアに12店舗を出店していますが、ほとんど大家さんから直接声をかけてもらい賃貸契約をさせていただいています。」と家主であり、相談相手でもアル人々に感謝する。その間、全国展開も手掛け、現在FC店も含めて58店舗を有する企業に成長している。 
単に洋服や小物だけに限ることなく、ヨーロッパの普段着の生活全般を提案していくことを目指す坂上さんにとって、飲食店の出店はかねてからの目標の一つだった。 
そして、恵比寿・代官山で買い物した後にくつろいでいただける空間があってもいいのではと“フランスの田舎ののんびりとした雰囲気の中で、家庭料理を楽しむ”という店舗コンセプトからメニューを設定、店内に置かれた調度品の一つ一つに至るまで、坂上さんは若いスタッフと一緒になって組み立てていった。盛り付けなどにセンスの良さを感じさせながら、気取りのない南仏の家庭料理は好評だ。 
坂上さんがフランスのカフェで見かけたチェコスロバキア製のイス、ベルギー製のカフェオレボウル、インテリアとして壁に立て掛けたイギリス製のはしごなどがアクセントになっている店内には、何気ないけれどそばにあると気持ちの良い物だけを置いている。カフェで使用している物は隣接する物販店でも販売している。つまり、カフェはショールームとしての機能も備えているのだ。 
同店に引き続いて開業した「トランジット・カフェ」はJR恵比寿駅の北口という立地からビジネスマンを意識したアルコール主体のカフェバーにした。これら飲食店2店は、信頼厚い横山路子店長が統括している。 
そして今年9月には福岡市にオープンする商業施設内に、物販と飲食の複合店「マリー・フランセーズ・カフェ」を出店する。 「長く東京で統括をしていた小林忠雄店長からぜひ地方での飲食1号店としてやりましょうという強い返事をもらうことができ、その一言で出店を決めました。」と坂上さん。 
フランスのライフスタイルを洋服を飲食の複合店という形で提供することにより、若い女性客にとってはより受け入れやすくなるのではないだろうか。物販のみならず、飲食店でも今後の新しい展開に期待したい。