飲食店経営2006年11月号掲載

髙橋 三範 さん

【略暦】
1974年生まれ、千葉県出身。小学校5年生から大学時代までラグビーに打ち込む。元来料理好きだったこととスポーツにおける体づくりという観点から食への関心が高く、食品メーカーと食品卸に絞って就職活動を行い、97年(株)雪印アクセス(現(株)日本アクセス)入社。現在、業務商品部営業部デリカグループに所属している。惣菜管理士1級、フードコーディネーター2級、Jrベジタブルフルーツマイスターの資格を持つ。


 今回、登場していただいた髙橋三範さんは、大手総合食品卸の日本アクセスに1977年に入社し、現在は業務商品営業部のデリカグループに所属している。食品卸会社の仕事は食品メーカーとスーパーマーケット、外食企業などの小売店の間に立ち、双方の円滑な取引を代行、商品流通の推進、髙橋さんはその中で、食品メーカーから原材料を調達しスーパーマーケットや中食チェーンへ提案、販売する惣菜の商品開発を担当している。食品メーカーと一口に言っても、野菜の加工メーカーから調味料メーカー、冷凍食品メーカーまでその業務内容はさまざまで、企業数も登録で約1万3000社、実質的に取引を行っている企業で約5000社に上る。クライアントの要望や商品テーマに沿ったより良い商品提案を行うためには、約5000社それぞれの持ち味や強みを常に把握し、パイプを持ち、提案を行っていかなければならない。まさにコーディネーターとしての力量が問われる仕事といえる。

入社2年目に現在の部署に配属された髙橋さんだが、元来料理が好きであったこと、また育った家庭もスーパーマーケットで惣菜を購入することがほとんどなかったことから、惣菜との出合いはこの時が初めてであったという。そこでまず、終業後にスーパーマーケットやデパ地下を巡り、商品内容や価格を研究して回った。現在でこそ社で推奨され、2、3級を43人、1級を10人が取得している惣菜管理士の資格も、配属後すぐ自主的に勉強して取得した。

自身の幅を広げるため勤務の傍ら通学

そんな髙橋さんは配属された部署での業務に慣れてきたころ、ジャパン・フードコーディネーター・スクールに入学することを決意する。

「スクールにはもともとレストランプロデュースの仕事がしたいという思いと、かかわっている惣菜の商品開発の仕事に少しでもプラスになる幅広い知識を身に付けられたらという動機から入学しました。授業のある日はできる限り仕事や打ち合わせがスムーズに終わるようやりくりし、会社やクライアント先を出るようにしてましたね。実際に通い始めるとカリキュラム全般においてこれまで知らなかったことが多く、一つ一つが興味深かった。一口に食の仕事といってもこれだけ多くの仕事(業種)があるということに驚き、奥の深さを再認識しました。中でも店舗をオープンさせる際の、顧客やメディア向けのPRの授業が非常に面白く、印象に残っています」

入学前から興味を抱いていたという、レストランプロデュースの授業では「居待(いまち)月(づき)」という都心にいることを忘れさせゆったりと時間を過ごせるカジュアルな懐石料理店を、グループで連携して計画、提案。髙橋さんはリーダーを務め、コンセプト立案、内外観デザイン、メニュー設計、原価計算と、レストラン開業までの一連の流れを学ぶことができた。また、スクールの出会い共に学んだ、年齢も環境もさまざまな仲間との親交は現在も続いている。

日々問題意識を持って食の仕事に携わる

惣菜の商品開発には、次々に食材の組み合わせや調理法を工夫したりして目新しいレシピを開発していくものと、定番の商品に改良を重ねていくものとが挙げられる。髙橋さんのところには、それぞれ同じくらいの割合で開発依頼が寄せられる。

そのために普段からアンテナを深く伸ばし、まめに情報収集を行っている。スーパーマーケット、デパ地下、駅ナカを定期的に回るのはもちろんのこと、地方出張の際は必ず地元のスーパーマーケットものぞくという。

「ただ、最近は以前のようにトレンドに合わせて商品開発のテーマが一斉に動いていくのではなく、スーパーマーケットでも外食産業でも、その企業のユーザーやカラーに合わせた独自の商品開発の依頼が多くなりました。よってクライアント自身のコンセプトワークがはっきりしていないと難しいですね」

現在は消費者の健康志向を背景に野菜を主とした惣菜の商品開発依頼も多く、その品目の多さや調理法のバリエーションなどをあらためて研究しているところだ。ほかに、高齢者をターゲットに据えた商品開発依頼も徐々に増えつつある。

「一番のやりがいは自分が携わった商品が売場に並び、それをお客様に買っていただくこと」と話す髙橋さん。開発に携わった商品を数え上げたらきりがないが、中でもこれまでに手掛けた印象的な商品は、あるスーパーマーケットで販売されている酢豚。これは、食材、調味、調理法などメーカー各社の強みを髙橋さんが上手にコーディネートして、試作を繰り返した結晶。開発から5年が経過し担当から離れた現在も、変わらぬレシピで作られロングセラー商品として売場に並んでいるという。

「食の仕事に携わることは自身のベースでもあるので、ずっと続けていきたい。現在の日本で身近な人に本当に薦められる安心できる食べ物が周囲に幾つあるかと考えると、すべきことはまだ多くあります。例えば、小規模だがよいものを作っている生産者の方(メーカー)たちを発掘し、可能な範囲で商品を流通させ開発するのも面白いかもしれません。食材や食品を一つ作るのにも、生産、物流の過程で非常にコストが掛かります。そういった環境面も意識しながら、自分の仕事が少しでも日本の食糧自給率の向上に貢献できればと思っています」

総合卸食品という立場から広い視野で食品流通を見通し、さらに食の問題の解決に少しずつでもアプローチしていきたいと、髙橋さんは問題意識を持って日々仕事に取り組んでいる。